第2弾
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「ジュピター」を聴きながら
「アポロンとエリーゼ」 アポロンは太陽の子という意味の名前を持つ聡明でとにかく活発でやんちゃな少年でした。 そしてアポロンは、竪琴の名手でもありました。アポロンが竪琴を弾くと人間のみならず、 動物や小鳥や蝶や花や樹木や石や岩までが彼の竪琴に聞き入って心を和ませ動きを止めて、 次第にその音楽の魅力に惹かれていくのでした。 アポロンが青年になった頃、竪琴を持って草原の月桂樹の木の下で竪琴を弾いていたらエリーゼという、 とても美しい乙女に出会いました。とても魅力的な乙女でした。 「僕の名前はアポロン。君の名前は」 「私の名前はエリーゼよ。あなたの竪琴とても素敵ね」 「そうかい、明日またここで会おうよ」 「いいわよアポロン」 「それじゃあ、明日」 エリーゼとアポロンはたびたび会うようになりました。 エリーゼはアポロンの竪琴の調べがとても好きでした。 彼女は、アポロンの奏でる竪琴の音に耳を傾けると、 彼は少年のようなみずみずしい感性を心の何処かに抱いている青年のように思えたました。 理知的な青年でありえて何処か少年の純粋さを持ち続けているアポロンのそんなところが、 とてもエリーゼは好きでした。 アポロンは、エリーゼの純真さに惹かれたのでした。 彼らは当然のようにお互いの良さが分かり合い身も心も愛し合うようになりました。 アポロンはエリーゼに言いました。 「エリーゼ愛している。僕と結婚してくれないか」 「私も愛しているわアポロン」 「僕が聞いているのは結婚してくれないかと、きいているんだよエリーゼ」 「もちろんいいわよアポロン」 エリーゼは、応えました。 とうとう結婚の日がやってきました。 結婚式の当日、結婚の神のヒュメナイオスがやってきて祝詞(のりと)と祝いの言葉を言ってくれて、 その場はおおいに盛り上がりました。 結婚式にきてくれた人々は、口々にお互いに似合いの夫婦だと言ってくれました。 アポロンはエリーゼの為に歌いました。(朗読でもよい) 生まれて初めて 空にかかる虹を見た時 僕の心は踊った 僕が君に会えた時も 空にかかる虹を見た 僕の心は踊った これから暮らす毎日が、これから暮らす毎日を 今と変わらない気持ちで君を見つめてゆきたい I love you. エリーゼは、幸せでまた嬉しくて涙ぐんでいました。多くの人に祝福された結婚式でした。 それから数日後、 エリーゼはアポロンと一番最初に出会ったあの草原の月桂樹の木の場所に友達の娘と一緒に行ってみました。 そこにはプルートの悪しき下部の大男が待ち伏せていたのでした。 実は、プルートは黄泉の国の魔王なのでした。 その魔王プルートの悪しき下部の大男を使ってアポロンの妻エリーゼを我が物にしようという悪巧みを企てていたのでした。 「このマムシを放てばあの女は、大王プルート様にめされるわけだ」 大男は、独り言を言って、それを実行したのでした。 エリーゼはその大男を見て危険を感じました。 それから逃げる途中でマムシに噛まれそうになり、大声で助けを求めました。 それで近くをとおりがっかた木こりと狩人に助けられました。 しかし、今度は大男がエリーゼを肩に抱え歩きだしました。 この大男の力は木こりや狩人より遥かに強く、この男からエリーゼを救うことはできませんでした。 この大男によってエリーゼは、生きたままプルートのいる黄泉の国に連れて行かれました。 その話を木こりと狩人から聞いたアポロンは、狩人からマムシの毒のついた弓矢を三本もらい、 プルートと対決するために、洞窟に入り地底にある黄泉の国へ向かいました。 「この川を渡してもれえないか」 「いいですともだんな。このような美しい調べは初めてきいた。渡ってくだされ」 アポロンの奏でる竪琴の調べで、黄泉の国の川の渡し守に川を渡してもらいました。 実はアポロンも不安と緊張で心の中はいっぱいだったのですが、 気力と優れた精神力でとうとう黄泉の国の魔王プルートの前までやって来ました。 黄泉の国の魔王プルートはアポロンに言いました。 「そんな竪琴の調べなど、このわしには何も通用しないのがわからないのか、 この小僧が。一体何をしにここに来たのだ。おまえは」 アポロンは魔王プルートにこう言い放ったのでした。 「俺をただの竪琴弾きだと思うなよ」 プルートは余裕たぷりに言ったのでした。 「小僧にしては、ずいぶんと威勢がいいではないか」 プルートはまだ気づいてはいなかったのでした。 先ほどからアポロンが竪琴を弾いていたので、黄泉の国の軍勢のゾンビ達は、 アポロンに襲い掛かるようなことはしませんでした。 アポロンは、ようやく心に落ち着きを取り戻しはじめ、天性の聡明さを取り戻しました。 ゾンビ達も自分に対して何の危害も加えなえし、こちらにも勝ち目があるかもしれない。 アポロンは、そう確信しました。 そしてプルートにこう言いました。 「きさまのような悪しき輩に私の妻エリーゼを渡すわけにはいかない。 きさまを倒して妻エリーゼを奪い返す。必ずな」 「一体おまえのような若造に何ができるというのだ。このわしに。 わしは、黄泉の国の王プルートなのだぞ、この若造めが。 出来ることと出来ないこともわからぬ若造に一体何がこのわしにできるというのだ。 身のほどを知れ。血祭りにしてくれるわ」 とプルートが言い終えるかいなか、 アポロンは、狩人から貰った毒矢を素早くとりだし矢を竪琴の弦を利用してプルートの眉間めがけて射ったのでした。 するとアポロンの放った毒矢は、ものの見事にプルートの眉間に命中しました。 しかし、プルートは平然としてこう言いました。 「おまえが今射った矢は『正義の矢』だな。まだおまえも若い、 実に若い。正義などと言うものは古来から勝利した者の側にのみあるものなのだ。 勝った者が正義、負けた者が悪。そんなものは、わしには通用せんわ、この愚か者めが。」 そう言い終わるとプルートは自ら眉間から矢を抜き取り、アポロンに襲い掛かかろうとしました。 アポロンは一瞬ひるみそうになりましたが、二本目の矢を射ました。 今度の矢もものの見事にプルートのこめかみに命中しました。 「しまった、わしは不覚をとってしまった。『真実と愛の矢』か…。苦しい…。」 プルートは苦しそうに身悶えながら、名実ともに黄泉の国の玉座から倒れ落ち息を引き取った。 「『真実と愛』の力を思い知れ、プルート」 とアポロンは、心の底から叫びました。 そして、捕らわれの身だったエリーゼは開放されアポロンのもとに返されました。 「僕がきたからもう大丈夫だよエリーゼ。もう恐がることはないんだ」 「アポロンありがとう。でも未だ安心は出来ないわ」 「僕についてくれば大丈夫さ」 魔王プルートがいなくなった黄泉の国のゾンビ達は、再び長い眠りにつきました。 アポロンはエリーゼと共に竪琴を弾きながら黄泉の国の川の渡し守に川を渡してもらい地上に出る洞窟を登っていきました。 するとその時です。 洞窟が後ろの方から突然大音響と共に崩れ始めたのです。 二人は手を取り合って急いで駆け出しました。いまわのきわのプルートの執念が追いかけてきたのでした。 二人は、一生懸命走りました。 もうだめかと思ったその時、アポロンは意を決して、 追いかけてくるプルートに竪琴の弦を弓のように使い最後の三本目の矢を射ったのでした。 「『封印の矢』か、無念だが、これまでだ…・」 プルートの最後のすさまじい叫び声でした。 その声がやむやいなや、全力で走っていたアポロンとエリーゼは、ようやく洞窟の外に出ることができたのでした。 そして、地上に出た二人はそのまま倒れてしまいました。 極度の緊張感と恐怖感と戦いによる疲労から二人は、眠ってしまったのでした。 しばらく眠った後に二人は目を覚ますと、二人が初めて出会った草原の月桂樹の木陰に横たわっている自分達に気が付きました。 地上では、二人は、あまりに太陽の光がまぶしいのに驚きました。 草木は青々とし小鳥は囀り心地よいそよ風が頬をなでていきました。何もかもが新鮮でした。二人は深かぶかと息をつきました。 「助けてくれてありがとうアポロン。地上では何もかもが輝いて見えるわ。地上に戻れて本当に良かった。ほっとしたわ」 「僕もほっとしたよ」 「本当にありがとう」 二人は強く抱きしめあいました。その後二人は、子供にも恵まれ末永く幸せに暮らしたということです。